くれない
2009年07月05日
18:50
ごく短い間ではあったが・・・むらさきの封印研究施設、 鉄 -くろがね-の要塞にて、
この主任のゾラと研究留学生サフランは、同じマダムの命により寝所を共に研究に励んだ仲である。
しかし、運命の女神はこのふたりをここ、・・・雄雄しくそびえ立つ羊蹄山のふもとを戦いの舞台としたのだ。
※ サフランの次々と繰り出す攻撃をなんとかかわしていたゾラであったが、ついに捕らえられてしまった。
それはまるで、蝶が舞うかのように大きく優雅な技の連続であった。
サフランとの間合いの限界を見定めて、ずっとかわしてはいたのだが、
どんどん激しくなる一方の攻撃に、もはやなす術もなくなっていたのだ・・・。
ゾラ (・・・っく、このままでは、いつかやられてしまう!)
そう考えたのもつかの間、逃げ続けるゾラの背後を、ついにサフランに押さえられてしまったのだ!!
全神経を研ぎ澄まして、サフランの攻撃を察知してきたゾラであったが、
その相手であるサフランが背後において、1人、2人、3人と・・・増えていくではないか !?
さらに、4人、5人、6人・・・10人、11人。。。と、
まるで分身の術かのよう残像を残し、等しく同じ気配のサフランが増殖していく!
ゾラ 「・・・これは、ガーネットの!! 」
そうゾラが叫ぶのと、いっきに12人にまで増えたサフランが、
・・・またひとつに重なり攻撃を仕掛けてきたのはほぼ同時であった。
※ 辛うじて、直撃だけは避けたが・・・サフランの華麗な分身の舞の一撃をくらってしまったゾラである。
マダム四天王のひとり、ガーネットはあらゆる格闘技、武術の達人で・・・
他の誰よりも、その筋において長けており・・・自らマダムの護衛役をしているほどである。
サフラン本人は、おそらくまだその事実を知らないであろうが、
彼女は、そのガーネットの細胞からマダムが錬金術を駆使して造り上げたクローン人間であった。
・・・まぁ、当然、その素晴らしいまでの武闘家としての素質は備わっていた訳である
サフラン 「・・・流石です、ゾラ主任。。。あれをかわすとはお見事です。」
ゾラ 「・・・く、褒めてもらえて、光栄だけど・・・、あなたがまだ完全じゃなくてよかったわ。」
サフラン 「何を言うですか・・・わたしはもう完璧です!」
ゾラ 「いいえ、残念ながら、あなたの額の “ パピヨンの紋章 ” はまだ眠ったままだわ。」
そう・・・完璧な状態の “ パピヨンの舞 ” であったならば、ゾラはこうしていま立っていられなかっただろう。
あんなに攻撃をされながらも・・・また痛む左肩を押さえつつも・・・、
このゾラの口調はサフランに対し、どこまでもどこまでも優しかった。
同じ四天王同士でも、筆頭だが性悪なキャンティとは違い、
とても実直なガーネットとは、共にお互いを尊重し合う間柄であったし・・・交遊もそれなりにはあった。
でも、何よりも・・・サフランはいっときでも一緒に過ごした仲間であり、いまでも可愛い愛弟子なのだ。
※ 少し山手側に立つサフランを見上げていたゾラであったが、次の瞬間にはその背後に回っていた!
何の素振りも見せずにゾラは、左手のリングが輝き瞬間移動する直前のサフランのすぐ後ろに立った。
これぞまさしく、目にも留まらぬ早業といえばいいのか・・・テレポーテーションなどではなく、
実際にゾラがこの距離を脅威の瞬発力を持って、瞬時に移動したのであった。
マダム親衛隊が装備している左手のリングには近距離であれば、
ある程度自由に・・・物理的にワープが可能な装置が組み込まれている。
この間の小樽運河で、ちょびさんがやったように、連動する仲間たちを呼ぶことも可能なようであるが・・・
ゾラに背後に回られた刹那、またそのリングの力によって、
山手からふもとへと、すぐさま瞬間移動をしたサフランであったが・・・その動きを見逃すゾラではなかった。
ゾラもまた、獲物を見据えた蛇の如く・・・鋭利な鎌首をもたげて、
移動から着地したサフランの左肩目指して、膝からの一撃をお見舞いしたのである。
サフラン 「・・・きゃーーーーっ!」
その攻撃力も、その場所さえも・・・サフランが放ち、
ゾラが受けた一撃と合い等しいものであったのだが、受ける側のキャパの差がものをいい、
まだまだ耐久力においても未熟なサフランは絶叫し、その場に倒れ気絶してしまったのだ。
※ ゾラの放ったニー・キックは、寸分狂いなく正確に己が受けた力をそのまま相手に返した形となった。
このゾラがちょっと本気を出せば、こうなることはわかっていた。
だが、可愛いサフランをできれば傷つけたくなかったので・・・、
執拗な攻撃をかわしつつ、ずっと逃げ回っていたのだが、
サフランの戦闘能力が予想以上に高かった為、仕方なしに、最後の手段をとったと言う訳だが・・・
そこは、古の忌み嫌われた “ 蛇神 ” の血が流れているという一族の末裔のゾラである。
目には目を、歯に歯を・・・ということだろうが、もう少し手加減してもよかったのかもしれない。
ゾラ 「・・・ごめんね、サフラン。」
己の一撃で、ぐったりと倒れてしまったサフランを見下ろしながら、ゾラは寂しくそうつぶやいた。
ゾラ 「さて、どうしようかしら・・・また、教授のところへ連れて行くのもね。。。」
またしても、考えあぐねていたゾラであったが、
いざという時の人質になるのは、自分だけでよいのだ、・・・そう己ひとりならどうとでもできるから。
そういう意味もあって、以前、このサフランをマダムのところへと送り返したのである。
しかし、次の瞬間・・・時空間を歪ませて、もの凄い波動がこちらへ向って突進してくるのがわかった。
※ どのような原理であるか、皆目見当もつかないが・・・空間を突き破り、あの麗華さまが突如目の前に!
麗華 「・・・そこまでよーーーっ!、ゾラさん!! 」
凄まじい圧倒的な存在感を持って、マダム親衛隊隊長である麗華が、
野獣の如きスピードで、サフランをはさみ対峙するように・・・ゾラの目の前に立ちふさがったのである。
麗華 「このサフランは、マダムから親衛隊で預かってる大事な娘さんなの・・・
ここからは、この麗華に任せてもらいますわ。。。ゾラさん」
ゾラ 「麗華さま、・・・ですけども。」
麗華 「またキャンティさんに、謀られ連れ出されて・・・こういう事になったのは謝るわ。
でもね・・・これはマダムのお考えになっていることなのよ。」
ゾラ 「・・・では、ガーネットは承知してることなのですか?」
麗華 「・・・これはマダムのご意志によるものなの・・・わかるわよね、ゾラさん。」
大恩あるマダムのご意志・・・そう言われてしまえば、もう何も言えなくなるゾラであった。
どこかやりきれない虚ろな気持ちで、さっきまで戦場であったこのニセコ町を寂しくひとり後にするゾラ。
そして、あとに残されたサフランと、その彼女を迎えにきた麗華の前に・・・、あのお方が姿を見せた。
※ まったく気配さえも感じさせずに、いつからそこにいたのか~あの伯爵が麗華の前に現れたのである。
伯爵 「・・・騒々しいと思えば、・・・そなたであったか、・・・久しいな、・・・息災であったか、・・・麗華。」
麗華 「・・・はっ、だ、旦那さま!・・・旦那さまにおかれましてはご機嫌麗しゅう。。。」
伯爵 「・・・ふっ、・・・麗しゅうもないがな、・・・まぁよい。」
麗華 「旦那さま・・・奥さまが、マルゴさまがお待ちです!・・・さぁ、麗華と一緒に参りましょう。」
伯爵 「・・・あれのことは言うな、・・・おまえの顔を見に参っただけだ。」
麗華 「しかし、奥さまはいまでもずっと・・・旦那さまがお帰りになるのを待っておられるのです!」
伯爵 「・・・くどいぞ、・・・麗華、・・・我は、・・・会えぬのだ。」
その伯爵の強い口調には、流石の麗華も二の句を告げなかった。
・・・辺りには、羊蹄山から吹きおろす静かな風だけがそよそよと流れていたのである。
・・・つづく。
ナレーション 「サフラン、ゾラ、麗華、・・・また、伯爵やマルゴの思いを知ってか否か、
・・・今日も悠然とそびえ立つ羊蹄山は、ただそこにあり、全てをみているだけである。
そうそう、何百年も前に、伯爵は出て行っているのだが・・・それを顔見知りの麗華さまって、
けっこうな長寿さんなのですよね。。。登場人物のみなさん、ご長命で羨ましいです。
ではでは、また次回・・・ここで、お会いしましょう。」
※ 遥か遠く過ぎ去った日々に想いをよせ、ひとり悠久の時を生きる闇の帝王・・・ヴァンパイアの伯爵。