選択の刻

くれない

2009年08月12日 15:12


自分を生み出し、育ててくれたマスターボルドの指令を受け・・・くれない軍団の内偵を続けているしゅろ

彼には、 “ 創作絵本作家 ” という表の顔の他に、もうひとつ、周囲には隠している裏の顔がある・・・、
そう・・・それは、運命の悪戯か、 “ 偽くれない ” となるべく生まれてきた哀しきクローンとしての姿であった。




 ※ 美しい海と隣接する静かなSHOPの中庭に、突如、呼び出されたしゅろ・・・その胸中はどんなだろうか。


自分にとって絶対の存在である敬愛するマスター・・・、そのボルドの命令でなければ、
いますぐにでも飛んでいき、いまだ意識が戻らないちょびママのそばにずっとついていたいしゅろである。


彼は、生まれて初めて接し、やさしくされた人間の女性であるちょびママに、
とても心を許し、その彼女をこの手で守りたいという・・・強い気持ちがあった。


・・・一度などは、恩あるマスターにも背き、心のままに単身渡仏したほどである。


しかし、その行動でさえも・・・ボルドにとっては想定内のことであったにすぎないのだが。。。




 ※ ここに、しゅろを呼び出したのは・・・小紅であり、急遽助手に任命された人狼吸血鬼デュークである。


待ち合わせの場所に音もなく現れたのは、封印継承者・・・小紅と、 “ 追われる男 ” デュークであった。


 小紅 「・・・よく来てくれたわ、呼び出した理由だけど、大体の見当ついてるわよね?」 


 しゅろ 「いえ、指し当たっては何も、・・・このボクにどんなご用があるのでしょうか?」 


 デューク 「いいんだよ、兄弟・・・ネタは上がってんだ、もうここで隠す必要なんかはないんだぜ。」


 しゅろ 「はぁ・・・そう言われましても、まったく思い当たる節がありませんので。。。」


そんな感じで、ふたりの追求を・・・あくまでも、すっとぼけるしゅろであった。  




 ※ 人狼であったデュークは、伯爵に修行され吸血鬼になったので、伯爵には頭が上がらないのである。


 デューク 「ったく、おめえんとこのボルドってのは、たいしたやつなんだな・・・俺たちをここまで謀り、 
 
 その正体を気づかせないなんて、すんげぇ~ってもんだぜ・・・まるで、伯爵マダムクラスの実力だ。」


 小紅 「・・・そうね、伯爵さまに言われなかったら、ずっとそれがわからないままだったなんて。」 


 しゅろ 「う~ん・・・おふたりのおっしゃる意味が、ボクには理解できないのですけど?」


 デューク 「ふっ、おめぇさんもたいした役者なんだな・・・俺ら、伯爵一派のヴァンパイアってのは、

 ある共通の記憶ってのを持つのが特徴なんだよ・・・あるんだろ、その記憶がさ・・・おめぇさんにもよ。」




 ※ そんなふたりの追求など、どこ吹く風といった感じで、まったく知らぬ素振りを貫く姿勢のしゅろである。


 小紅 「・・・ねぇ、しゅろくん。。。いいえ、 “ 偽のくれない ” くんと言ったほうがいいのかな?

 あなたの大好きなちょびママを、あたしたちも助けたいのよ・・・だから、協力してほしいの。」 


 しゅろ 「・・・っうぐ。」


 デューク 「けっ、そこにだけは反応すんのかよ。。。まったく現金な野郎だぜぃ w 」  


 小紅 「・・・あなたの協力が必要なの、お願い・・・マスターボルドに会わせて。」


 しゅろ 「・・・ !?」  




 ※ その時、デュークの身につけている林檎型のバックルが眩しく光を放ち、3人を異空間へといざなった。


先ほどまで、心地よく聞こえていた波音も消え去り・・・あたりは無音の世界に包まれていた。


 デューク 「・・・いまここは閉じられた空間の中だ、周囲に話を聞かれる恐れはまったくなくなったぜ、

 それに、おめぇの正体を知ってるのは、ここにいる俺らだけで・・・この先も他の誰かに話す気はねぇ。

 まぁ、これまで通りに・・・仲間の誰にも危害を加えないならって事だがな、どうだ観念しろよ・・・兄弟。」


 小紅 「・・・くれないくんが、危険なの。。。そうなったら、きっとちょびさんも悲しむことになるのよ。」  


 しゅろ 「・・・ちょびママが悲しむ?」


 小紅 「・・・そうよ、ちょびさんはみんなで揃って、楽しく暮らしたいのよ、もちろん。。。あなたも一緒にね。」  




 ※ 小紅たちの熱い想いに、徐々にだが、心を開こうとする兆しがみえるしゅろ・・・いや、偽くれないである。


 小紅 「・・・もう、自分を偽らないで生きていいのよ、あなたの人生はあなたが決めるの!」


 しゅろ 「ボクの人生は、・・・ボクが決めてもいいのか、でも、無理だ・・・マスターには逆らえない。」  


 デューク 「えぇい!・・・じれったい野郎だな~、好きな女くらい自分で守ってみせろ!! ってもんだぜぃ。」


 小紅 「・・・そうよ、あなた自身の気持ちで、ちょびさんを助け出してあげるのよ。」


ふたりによる言葉の波状攻撃で、頑なであったしゅろの心の氷は、ゆっくりだが溶け始めていた。

それは繊細さ故に、張り巡らせていた見えない心のバリヤーの崩壊でもあったのだ・・・。  




 ※ 自己を開放していくことにより、これまでは持ち得なかった吸血鬼としての能力が目覚めたのである。


 しゅろ 「・・・わかった、マスターのところへ案内してあげるよ。。。そして、ボクがちょびママを守る!」


・・・かつてこれまでに、一度も見たことがないほど自信に満ちたしゅろの顔がそこにあった。

それは、あのくれないの如く・・・まったくどこにも根拠は無いが凄まじい自信の笑顔とよく似ていた。  


 デューク 「そうこなくっちゃなぁ~兄弟・・・よしっ、そうと決まれば時間もない事だし、さっそく向かうか!」 


 小紅 「・・・そうしたいのは、山々だけど。。。相手はあのマスターボルドだわ、少し準備をしないとね。」 


どんな時でも、油断などせず、決して慎重さは忘れない封印継承者・・・小紅である。




 ※ 一先ず、次の段階へ進む道が開けて安堵する小紅であったが、次なる相手はあの・・・ボルドなのだ。


半ば、あまり疑うことを知らぬしゅろを騙したような形の説得となったが、
彼の中にずっと眠ってきた熱き真の心に訴えかけ・・・新しい自分を発見させる手助けとはなっただろう。


しかし、小紅たちはボルドに会い・・・いったい何をするつもりなのであろうか?



                                                            ・・・つづく。



 ナレーション 「・・・くれない復活に向け、極秘に動き出した小紅たちはまず、しゅろと密会しました。 

 そして、言葉巧みに・・・彼をそそのかし~。。。見事、無事にボルドへの橋渡しを手に入れたのです。


 やはり、しゅろとて・・・基はくれないなのであると、はっきり判明した結果となった訳ですね。


 ・・・ではでは、またここで、この時間に。。。お会いすることにしましょう。」




 ※ 通常空間に戻った小紅デュークしゅろの3人を、暖かく柔らかい日差しが照らしているかのようです。
闇の黙示録編 第三部