くれない
2009年07月13日
02:27
前回、本意ではないものの・・・可愛い後輩の研究留学生サフランを、
見事・・・・一撃で打ち倒してしまったマダム四天王のひとりゾラは、とても複雑な思いでいっぱいだった。
そこを怒涛の如く登場した、マダム親衛隊隊長である麗華に促されて・・・この場をそっとあとにする。
※ ここ壮大なる羊蹄山のふもと・・・ニセコ町において、女たちの攻防が静かに繰り広げられていたのだ。
そして、そのゾラが立ち去ったすぐあとに・・・麗華の前にあの伯爵が姿を現したのだった。
深き闇の帝王でもある “ 吸血鬼 ” の伯爵は、長く留守にしているとはいえ、
麗華にとって主であるマダム・マルゴの唯一の夫という特別な立場の存在である。
この麗華の願い・・・それは、“ マダムと伯爵が共に仲睦まじく暮らし、
そこに、ご一緒にボルド坊ちゃまもおられる ” ・・・という、実は単純な、しかし、相当に困難な事だったのだ。
現在、伯爵はとある理由により、もう何百年以上という長い年月・・・
かつて深く愛しあった・・・妻であるマルゴのところへは一度も戻っていない。
そんな伯爵がまだマルゴと共に暮らしていた遥か昔に、
麗華はマルゴに新たに命を吹き込まれ、この世に再びよみがえったのである。
・・・麗華は、発見された時、完璧な状態で “ 封印 ” を施されていた “ ミイラ ” であったのだ。
実際、発掘し見つけたのは伯爵であったのだが、それを開封し復元したのは妻のマルゴであった。
その時以来、麗華は忠実にマルゴのために、とても献身的に尽くしてきたということになる。
・・・ちなみに、発掘された “ ミイラ ” はもう一体あり、
それが誰なのかはもう言うまでもない事なのだが、あのバレンシュタインその人である。
(その彼が、麗華にとって夫であったのか、また兄弟であったのか、・・・その関係は不明のままなのだ。)
※ そんな麗華の願いも、伯爵に一喝されてしまい、どうもできないと思い知らされてしまったのだが・・・。
あまりにも哀しく、またまっすぐな瞳で立ちすくむ麗華をみて、
不憫にでも思ったのだろうか、少しの沈黙の後、伯爵はこう切り出した。
伯爵 「・・・とはいえ、・・・そなたのあれに尽くす態度、・・・我れは、・・・感心しておるのだぞ。」
麗華 「だ、旦那さま・・・もったいないお言葉であります。・・・麗華はただ当たり前のことをしてるだけで。」
伯爵 「・・・そうはいうが、・・・なかなかにはできぬ事だ、・・・礼をいおう、・・・麗華。」
この思いがけない伯爵の感謝の言葉が、ちょっと思い込みの激しい麗華の琴線のどこかに火をつけた。
麗華 「麗華は、これからもずっと・・・これまで以上に奥さまのために尽くしていくことを誓いますわ!」
伯爵 「・・・ふっ、・・・そなたはいつも真っ直ぐなのだな、・・・そういう生き方もまたまことなのかもしれん。」
眼前の伯爵の微妙な心の揺れは、もう半ば舞い上がっている麗華に気づかれることはなかった。
孤高な “ 闇の支配者 ” 、伯爵もまた素直になれない煩わしい想いを抱えているのであろう。
伯爵 「・・・我れともあろうものが、・・・戯言であったな、・・・あまり無理をするでないぞ、・・・麗華。」
この去り際に伯爵が言った台詞などは・・・ほとんど麗華の耳に届いてなかったようである。
※ 時空を歪ませ、サイケに景色を染めて、その姿を潜めた伯爵、一瞬、かすかに微笑んだようにみえた。
すぐ目の前から、伯爵が消え去ったあとも・・・麗華はひとり自分の心の中に惑っていた。
おそらく・・・脳内より、大量であろうドーパミンがどくどくと溢れ出ていたのだ。。。
麗華 (・・・旦那さまが、この麗華に頼まれたのだわ。。。奥さまと、そして、坊ちゃまと共に暮らせるよう、
これからも尚いっそう励むようにと!・・・そうだわ、その為ならこの麗華・・・命さえも惜しいと思わない!! )
この時の麗華は、明らかに自分の考えに酔いしれていた。
麗華 「もうしばらくだけ、お待ちくださいませ!・・・奥さま、旦那さま・・・そして、ボルド坊ちゃまーっ!! 」
静まり返った羊蹄山のふもとには、そんな麗華の魂の叫びだけが・・・いつまでもこだましていたのだ。
・・・つづく。
ナレーション 「・・・麗華さまは、如何な理由か不明だが、封印されていた “ ミイラ ” だったんですね。
いったい、いつの時代に誰がどんな目的で “ 封印 ” したのか・・・まったく謎なのですけど。。。
しかし、それを復元?してしまうマダム・マルゴの能力もまた不可思議なのでありますが、
それにしても麗華さまって、思い込んだら・・・なんとやら~、ほんと正しい方向に進んでほしいものです。
・・・では、また次回、ここにてお会いしましょう。」
※ 迎えに来たはずのサフランなど、気にも留めずに・・・ただ妖しい想いに浸っている様の麗華であった。